概要
①入れ歯は、夜ははずして、流水とブラシできれいに洗って、きれいな入れ歯ケースの中に新しい水をいれて翌朝まで保存しましょう。翌朝口にはめる前にはもう一度、流水と入れ歯用ブラシできれいに洗いましょう。

②ばい菌が一番増え易いのは適温、水分、栄養の条件が揃ったときです。口の中は37度の体温、唾液という水分、食べカスという栄養があって、ばい菌にとっては非常に増えやすい環境です。入れ歯をはずさないで寝ると、入れ歯と口腔粘膜の間に、ばい菌にとってとても都合のいい場所ができて、さらに増えやすくなります。口腔内のばい菌が肺炎を起こすことがあります。

③特に部分入れ歯は、夜間寝ているときにはずれてしまい、それを知らない間に間違って飲み込んでしまうことがあります。非常に危険です。

入れ歯を使用されている方のうち、多くの方は、夜間寝るときに入れ歯をはずしていらっしゃるようですが、ときにびっくりするような習慣の方もいらっしゃいます。
これダメ!の入れ歯の扱い方。オススメの入れ歯との付き合い方を紹介します。

間違った入れ歯の管理法からすぐ卒業。入れ歯は夜はずすのが正解?はずさないのが正解?

いろいろな考え方の歯科医師がいるようですが、私は強力にはずすことを推奨します。

夜はずさないことを推奨する歯科医師は、患者さんに「入れ歯を夜はずして寝ると、入れ歯が合わなくなる」と言っているようです。

一晩入れ歯をはずしたために歯が動いて、翌朝急に入れ歯が入らなくなった患者さんに、私はお会いしたことはありません。
何日もの間全く使用しない場合には、歯が動いて入りにくくなることはあります。

月単位、年単位で入れ歯を使用しないと、全く入らなくなることもありますが、昼間使用していれば、夜間つけなくても、入れ歯が合わなくなる心配はほぼないと思われます。

論外と思うのであまり書きたくはないのですが、おかしな習慣が広まって欲しくないのであえて書きます。

テレビで"災害のときに入れ歯がないと困るので、夜は入れ歯を着けて寝ましょう!"と言っていたと聞きました。そんな馬鹿げたことは信じないでいただきたい。

入れ歯をつけて寝る前に、メガネをかけて、コンタクトをつけて、補聴器をして、洋服も着て、靴も靴下も履いて寝ないといけないでしょう。

災害時に入れ歯がないと困ることがあるかもしれませんが、入れ歯をつけたまま寝る弊害の方がたくさんあります。

いつ起こるかわからない災害に備えることは大切ですが、その備えの1つとして入れ歯をつけて寝るというのはおかしなことだと思います。
寝るときは、必ず入れ歯をはずしましょう。

夜入れ歯をはずすことを推奨する3つの理由
細菌、肺炎、誤嚥・・・その1 細菌

人によってかなり差がありますが、人の口の中にはばい菌(細菌)やカビ(真菌)などが何億も住んでいます。種類も300種類以上と言われています。ある程度のばい菌などがいて、そのバランスが取れているのが私たちの口の中の普通の状態なのです。

そのばい菌が一番増え易いのは適温、水分、栄養の条件が揃ったときです。口の中は37度の体温、唾液という水分、食べカスという栄養があって、ばい菌が非常に増え易い環境です。
 
昼間は食べたり、喋ったりすることによって、ばい菌は唾液や食べ物にとともにある程度胃に流されて行きますが、夜間は唾液が少なくなり、適度な水分、適温、栄養の条件が整います。

歯が揃っている方も(=入れ歯を使ったことがない方も)、夜しっかり歯磨き(口腔ケア、口腔清掃)をして寝ても、朝起きたときに口の中がベタベタしたことがあると思います。それは、夜寝ている間にばい菌増えているために起こっているのです。

特に入れ歯の床(ピンク色の部分)は、レジンというものでできていて、とてもカビ(真菌)と親和性が高い(仲良し)と言われています。

入れ歯をはめたまま寝ると、入れ歯の床と粘膜の間にばい菌、カビにとっては唾液によって流されない安全な場所を作ってしまいます。

その結果、朝にはたくさんのばい菌やカビが口の中に増えてしまいます。そのような習慣の方の口の中には、必ずと言っていいほどカビが生えています。

カビが生えたときには、口が乾燥している感じがするとか、味がしないとか、味がよくわからないとかいう訴えをよく聞きます。

口の中のカビは生活環境の中で見るような黒カビや赤、白カビのようには見えません。

入れ歯には特に黒カビを見ることが多いです。ピンク色の床に黒い斑点があったらおそらくそれは入れ歯の管理が悪かったために黒カビが生えているのです。

夜入れ歯をはずすことを推奨する3つの理由
細菌、肺炎、誤嚥・・・その2 肺炎

高齢者は肺炎で亡くなる方が多いです。
肺炎といっても、いろいろな肺炎があります。

肺炎の中には、夜寝ている間に、気がつかない間に自分の唾液を飲みそこなって(唾液誤嚥と言います)起こすものがあります。

唾液の中にたくさんのばい菌がいれば、唾液を誤嚥したとき一緒にたくさんのばい菌やカビ類を気道(空気の通り道)の方に連れて行ってしまいます。行き着く先は肺になります。

本来、ばい菌がいないはずの肺に、唾液とともにばい菌が入ってくると、その人の持つ抵抗力がばい菌に負けてしまうと肺炎を起こしてしまいます。

夜入れ歯をはずすことを推奨する3つの理由
細菌、肺炎、誤嚥・・・その3 誤嚥

入れ歯には総入れ歯と部分入れ歯があります。

総入れ歯が夜間寝ているときにはずれても、喉の奥の方でつかえてしまいそれより奥には進むことはほぼないと言えます。ただし、息が苦しくなったり、びっくりしてパニックを起こすことになりかねません。

1歯〜数歯の部分入れ歯などは、はずれやすいため、寝ている間にはずれてしまい、入れ歯を誤嚥してしまうこともあります。誤嚥(ごえん)とは間違って飲み込むことです。

食べ物は飲み込むと、食道から胃に入っていくのが正しい経路です。食べ物の誤嚥は、本来入ってはいけない気道→肺に入っていくことを言います。

ここでいう入れ歯の誤嚥とは、入れ歯が気道または食道に入っていくことを指します。

部分入れ歯には、入れ歯を残っている歯につけて安定させるためのクラスプという金属が付いています。

間違って飲み込んでしまう(誤嚥する)と、食道に入っても、気道に入っても粘膜を傷つけたり、刺さったりすることがあります。

食道や胃に入った時は胃カメラで、気道に入った時は気管支鏡を使うことになりますが、どちらにしても、取り出すためには苦しい思いをしますし、命にかかわることにもなりかねません。

特に気道→肺の方に入っていくとかなり厳しい状況になります。

食道の方に入った場合でも、便と一緒に出てくるのを待つというわけにはいきません。小さい歯でかつ突起のないものは、レントゲンを撮って位置を確認した上で、便と一緒に排出されるのを待つこともあります。クラスプなど突起のあるものは、非常に危険です。

そこまでのリスクを侵して、いつ来るかわからない災害に備えて入れ歯をつけたまま寝る意味はないと思われます。

入れ歯の管理

入れ歯をはずしたら、水を流しながら、入れ歯用ブラシでゴシゴシと隅々まで磨きます。特に凹んでいる部分や金属の部分は、磨き残しが出やすい場所なので丁寧に磨きます。その後、きれいな入れ歯ケースに新しい水を入れて保存します。

翌朝は水から出して、また、水と入れ歯用ブラシでゴシゴシきれいに磨いてから口の中に入れます。

もちろんその前に口腔ケアもしっかりとします。歯が全くない人も入れ歯を入れる前と、はずした後は舌やその他の粘膜面をスポンジブラシで優しくケアしましょう。

歯がないから、歯磨きではなく、口磨きをしましょう。

入れ歯の保管に関して一番覚えていていただきたいのが次のポイントです。

入れ歯ケースを使わない時(おそらく昼間だと思います)は、ケースは流水とブラシなどできれいに磨いたあと、よく水を切ってペーパーなどで拭いて、蓋がある場合は蓋を開けたまま乾燥させてください。

清潔、乾燥が大切です。濡れたまま蓋をしているとケースにも簡単にカビが生えてしまいます。
そこにどんなにきれいにした入れ歯を入れても、汚くなってしまいます。

カビが生えたら入れ歯保存ケースは、キッチン用の漂白剤などできれいにしましょう。ときどき新しいものに交換しましょう。

専用の入れ歯ケースの必要はありません。100円均一ショップのプラスチックコップでも、食品用のプラステック容器でもいいので、清潔、乾燥できるものにしましょう。

ご両親の入れ歯は大丈夫でしょうか?しっかり管理できていると思い込んでいませんか?
早速入れ歯、入れ歯ケース、口の中をチェックしてみましょう。

おまけ1   衝撃的な入れ歯保管方法

ある入れ歯の保管方法にショックを受けたことがあります。口の中はもちろん入れ歯もカビだらけなのに、「入れ歯は夜はずしています。」という方がいらっしゃいました。
よく話を聞くと原因は入れ歯ケースにありました。

入れ歯ケースを開けると、中には異臭がするヘドロのような粘性の液体が入っていました。それは入れ歯発泡洗浄剤。
聞くと3ヶ月間替えていない入れ歯発泡洗浄剤の入ったヘドロの中に、口から出した入れ歯を毎日漬け込んでいたそうです。良かれと思って。
そして翌朝きれいになったと思い込んで、ヘドロの中から入れ歯を出して、口の中にはめていたそうです。実際あったことです。

何が悪かったのか皆さんおわかりですか?おわかりですよね⁉︎

入れ歯の持ち主は、入れ歯発泡洗浄剤に浸けると宣伝のようにばい菌が取れると思っていた。
また、入れ歯発泡洗浄剤の入った水を交換しないといけないということを知らなかった。
さらには、入れ歯発泡洗浄剤に浸ける前に入れ歯用ブラシと水できれいにしないといけないことを知らなかったのです。

種々の入れ歯発泡洗浄剤が市販されていますが、もし使われる場合は、必ずゴシゴシ磨いてきれいになった入れ歯を、きれいな容器と、新しい洗浄剤につけましょう。

おまけ2 衝撃的な入れ歯

肺炎で入院した患者さん、入れ歯をずっとつけっぱなしだったということがわかりました。

はずして口腔ケアしようとしましたが、はずれません。
理由は、あまりにも長くつけっぱなしだったため、入れ歯の床(ピンク色の部分)の部分が、粘膜に埋没してしまっていたのです。はずしたら粘膜面からかなり出血しました。